WORKS
事例紹介K様邸@南青山
都心のヴィンテージリノベ
50㎡台でもゆとりが生まれるフレキシブルな空間づくり
一目惚れのヴィンテージマンション コンパクトな間取の可能性を模索
「最初は広い家に住みたくて、戸建やコーポラティブハウスを中心に探していました。」
マスコミ系の会社に務めるK様ご夫婦。予算やエリアの問題もあり、次第に中古マンションの中でも特にヴィンテージマンションを視野に入れることになったそう。半年ほど物件を探したのち、南青山にあるヴィンテージマンションの購入を決めた。
「最近の新築マンションは完成時がピークで、その後は劣化していく一方。でもヴィンテージマンションと呼ばれるマンションは、年月が経つほど味になっていきやすい素材でつくられている建物が多いんです。このマンションも築年数は経っていますが立地はいいし、管理状態も良い。ヴィンテージらしい佇まいが気に入って購入しました。」
80㎡ほどの物件を求めていたふたりにとって、唯一気になっていたのが約56㎡というコンパクトな間取り。
「広さに対しての優先度は低かったので、廊下をなくしたりして、まぁなんとかなるだろう!(笑) という気持ちで購入を決めました。」
学生時代建築を学んだ奥様。
「大学では空間に対する考え方を学びました。使われ方が限定されたスペースや個室をなるべく少なくし、様々な用途に使う事のできるスペースを増やす方が豊かに暮らす事ができるように思います。」
柔軟な発想で設計者と打合せを重ねた結果、元々2DKであった間取をざっくりワンルームへと変更。壁ではなく引戸やウッドシャッターでワークスぺースや寝室を仕切る仕様とした。
「面積の広い家でも個室が多いと体感的に広さを感じられない。だから個室をつくらない代わりに一つの大きなスペースの中で居場所を沢山つくり、時間ごとに居る場所のバリエーションを増やす事で、広さを感じながらも用途によってもそれぞれきちんと機能するワンルームを目指しました。」
リビング・ダイニングとひと続きの縦長の間取りになっているが、境目にある梁が空間をうまく区切っている。
LDKのシンボルとなっている長さ約4.5mものキッチンは、ダイニングテーブルと一体型。
ワイドなカウンターテーブルでは食事をとることはもちろん、天板の下にコンセントを設けることでパソコン作業や資料を広げて仕事の打合せができたりと、様々な用途で使用できる場所に。
キッチン部分は作業しやすい900mmの高さになるよう床を一段下げ、モルタルで仕上げている。天板より下の収納部分はIKEAのパーツを組み合わせた。
ワークスペース。玄関からキッチンへつながる導線の機能も兼ねているが、扉を閉めれば一つの部屋にもなる。
「ここだけ床はカーペットにしましたが、正解でした。狭い空間ですが籠って仕事に集中したい時などに便利。窓があるので明るく、落ち着く空間なのでとても気にいっています。」
テレビが主役のリビング
仕事柄、テレビは常にチェックしているというご夫婦。ダイニングや寝室からもテレビが見られるよう間取りを構成。
「隣の畳の部屋からも座って寛ぎながらテレビが見られるように、ソファはどっしりとしたものではなく移動可能なものにしました。」
床に敷きつめたウォールナット材のパーケットフローリング。素足で歩いたり直に座っても肌触りがよく、気持ちの良い質感が楽しめる。
寝るだけじゃない、寝室
用途を限定しない家づくりの考えは、もちろん寝室にもいかされている。
「コンパクトに暮らすため、思い切ってベッドでの生活と決別。布団が敷ける畳を希望しました。」
収納を兼ねた小上がりをつくり、その上を畳のスペースとした。
「友人が来たときはここに座ってくつろいだり、日中ちょっと休みたいときは寝転がって昼寝をすることもあります。(笑)」
ベッドを置かないという選択が、空間の使い方を大きく広げた。
小上がりにしている畳の下はキャスター付きの引出し収納になっている。普段使わないものは全てここに収納。
ブラックの和紙畳は和風になりすぎず、木との相性も良い。日が差し込む時間帯、窓を開放して腰かけると、まるで縁側に座っているかのような穏やかな気持ちにさせてくれる。
眠る時はまわりを囲いたいが普段はオープンに使いたいというオーダーを受け、折れ戸式のウッドシャッターをご提案。羽板は角度を調整できるため、完全にクローズにしたり半分オープンにして風を通したりと様々な使い方が可能。
壁面には造り付けの棚を設置。 “見せる“ 収納に挑戦
今回リノベーションを実施する上で、“収納用の家具は買わない”と最初に決めていたというお二人。
「LDKの壁は全てオープンな棚をつけてもらいました。それ以外の壁には建具を取付けたりしているので、一面真っ白な壁があるのは寝室の壁だけです。ここの壁は躯体壁をそのまま塗装しただけ。凹凸がまるで絵や模様のように見え、表情があるので気に入っています。」
「キッチンの壁面タイルは、最初藍色のものを希望していましたが、納期の関係もあり白のタイルをご提案いただきました。食器など細々としたものを置いてもしっくりと馴染むので白で進めてよかったです。」
壁面に収納する事で他の空間がスッキリとし、より部屋が広く感じられた。
リビングの壁面には書類や本を収納。サイズに別に収納できるよう棚ごとに高さを変えている。
食器類も全てオープン棚に収納。カウンターの下にはゴミ箱などを配置。ストック用の食品などはスタッキングできるケースに入れて上手に収納している。食器はシンプルなデザインものをSMLと揃える事が多いそう。「空間と同じで、用途を限定せずいろいろな料理に兼ねられるものが好みです。」モノを多くもたない暮らしのヒントになりそう。
ワークスペースやエントランスにもオープン棚を設置。
リビングの隣にはWICをつくった。布団を収納できるよう寝室からもアクセスできる仕組み。
躯体の表情が残る寝室の壁。
ポイントは古くならない素材と色
白い壁、タイル、木の扉、パーケットフローリング、モルタル、ステンレス、さし色の黒…
照明器具やスイッチプレート、他細かいパーツ類に至るまで、全て時が経っても古くなりにくいかどうかで選んでいき、シンプルな素材と色でお部屋を構成した。
洗面室・浴室も白を基調にシンプルに。浴室はご主人の希望で戸建用の大型のものを採用。
洗面器は学校の理科実験室や病院などの施設向けにつくられた角型の陶製シンク。ミニマルな仕様だが幅広で扱いやすく近年人気がでている。蛇口が特徴的な水栓もインダストリアルな雰囲気。
「ヴィンテージマンションを決めた理由と同じで、内装や家具も古くなったとしても味になりやすい素材が好きです。家具は今回のリノベーションのために買いそろえましたが、リビングのテーブルやダイニングの椅子など、学生の頃から長く使っているものも多くあります。キッチンにつくってもらったモルタルの天板も水を吸ってしまったりキズがつきやすいですが、使っていくうちにどんどん愛着がわいてきています。そういう変化も楽しめたらと思っています。」
奥様が高校時代から愛用するイームズ「LCM」。背板部分のキズも、いい味になっている。
仕事柄あまり休みが取れず、日々多忙な生活をされているご夫婦。当初考えていた郊外の戸建てから都心のヴィンテージマンションへシフトした結果、職場まで徒歩で通える近さになったのだそう。
「元々ヴィンテージマンションは立地の良い場所に建っている事は知っていました。いざ住んでみると、ちょっとあいた時間で話題のお店に食事に行けたり、新しいお店をウィンドウショッピングしたり… 生活が豊かになり、意外と都心ありだな~って思いました。」
良質なヴィンテージマンションで理想の住まいを手に入れたお二人。現在まさに「職・住・遊 近接」の生活を実践している。
さらに、ヴィンテージ好きのご主人は購入後もヴィンテージマンションの物件探しが日課になってしまっているそう。広いベランダにウッドデッキを敷いたり、サッシをシルバーのものから黒い枠にものに取り替えたり… お部屋に関してもまだまだやりたいことがあるそうなので、今後のお部屋の変化も楽しみです。
K様ご夫妻
【Data】 用途 : 住居 家族構成 : 夫婦 延床面積 : 56.59㎡ リノベ完成年 : 2017年 構造 :RC造
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BEFORE→AFTER
写真左から
「東京リノベ」コーディネーター 沢山、K様、「東京リノベ」主幹 谷村
photo / 飯貝拓司